「薬の副作用で睡魔が襲う!」

光文社新書「受験うつ」第4章より


・・・このところ毎年、受験シーズンが終わると、抗うつ薬の副作用で入試の真っ最中に眠ってしまって不合格になったという受験生が来院されます。

 

彼らの悔しさは耐え難いもので、同じ失敗をしないよう具体例をあげて警鐘を鳴らしておこうと思います。

 

 

私立文系の大学を目指すHさん(高校3年生女子)は、近所の精神科クリニックでうつ病と診断を受け、SSRIを処方されましたが、目立った効果は現れませんでした。

 

このような場合、1ヶ月から2ヶ月たったところで、別の種類のSSRIに切り替えます。

 

それでも効かないときは、SSRIに加え、他の種類の抗うつ薬の併用に踏み切るのが一般的です。

 

この場合に用いられることが多いのが、「NaSSA」と呼ばれる2009年に承認された新しいタイプの抗うつ薬です。

 

 

NaSSAは、SSRIとはまったく異なるメカニズムによって脳内のノルアドレナリンとセロトニンの作用を増強するもので、確かに高い治療成績を残しています。

 

特に、SSRI、あるいはそれに準じたSNRIとNaSSAを併用した場合はとりわけ効果が大きく、まるでロケットを打ち上げるように気分が改善するということから、米国では「カリフォルニア・ロケット処方」と呼ばれています。

 

NaSSAがNASA(アメリカ航空宇宙局)と言葉が似ていることも、ロケットを連想させたのでしょう。

 

 

では、実際の効果はどうかというと、ロケットの打ち上げにたとえるのは明らかに誇張だと感じますが、確かに一部の人によく効いているのは事実です。

 

SSRIの単独では効かなかった患者に対してNaSSAの併用を試してみるというのは、うつ病治療の一般論としては妥当だと思います。

 

 

ただし、受験生の場合にはNaSSAの副作用に特段の注意が必要です。

 

中でもとりわけ問題なのが傾眠、つまり激しい眠気が襲ってくることで、臨床研究ではちょうど50%の方に生じるというデータが出ています。

 

 

Hさんの場合、2種類のSSRIを単剤で試しても効かず、次の段階としてNaSSAの併用に移行したのですが、それがちょうど受験の本試験の時期に一致してしまったのです。

 

私が診察した時も、Hさんの左手の甲には、痛々しい傷跡が残っていました。

 

何とか目を覚まそうと、シャープペンシルの先で手の甲を突き刺したそうですが、いくら激痛を与えてもNaSSAが生み出す眠気を吹き飛ばすことはできず、結局、不合格になってしまいました。・・・

 

 

光文社新書「受験うつ」第4章より

 

「受験うつ どう克服し、合格をつかむか」

光文社新書 

 

吉田たかよし 待望の新刊本!

12月16日、発売決定!

 

<目次>
第1章 増える受験うつ
第2章「受験うつ」のメカニズム
第3章 受験うつは答案用紙に表れる
第4章 間違いだらけの治療法
第5章 親のひと言が子どもを受験うつにする
第6章 うつにならない勉強法
第7章 親のコーチングで結果は出せる

 

<内容紹介>
未成年のうつ病、しかも、ストレスが増える受験期に突然発症する人が急増している。
子どもと大人では症状が大きく異なるため、親も受験生本人も発症に気が付かない
ケースが多いのが実情である。
中学受験ではもちろんのこと、高校受験や大学受験で頻発しており、受験生専門外来の
私のクリニックにも、勉強が手につかなくなった多くの受験生が来院している。
受験期のうつで人生を狂わさないために、受験生本人が、家族ができることは何か?
また、脳機能から考えたストレス管理や効率の良い勉強法もまとめた、
うつ病の有無を問わず受験を控えたすべての方に必見の書。